稲波弘彦先生の研究

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今回は岩井医療財団からの論文紹介をさせてもらいます。Natureという大変有名な科学雑誌を出している出版社のScientific Reportsという雑誌に、稲波弘彦先生の研究が掲載されました。前回のブログでインパクト ファクターは重要でないと言いましたが、ちなみにこの雑誌のインパクト ファクターは 4.122 (2018年)とかなり高いものです。これもやはりオープンアクセスで、英語ですがフリーでダウンロードできるので、ご興味のある方は全文を見て頂ければと思います。

Relationship between lumbar lordosis and the ratio of the spinous process height to the anterior spinal column height
https://www.nature.com/articles/s41598-020-63648-7

人間は皆高齢化すると圧迫骨折などがなくとも背中が曲がってきてしまいます。これは腰椎のlordosisと呼ばれる前湾が少なくなるためにおこる現象です。背中が曲がっているだけなら見た目の問題ですが、時に腰痛や歩行障害、下肢痛なども伴ってきます。Lordosisが減少する原因はこれまで椎間板や椎体自体がつぶれてきたりすることが原因と考えられていました。しかしこの論文の中では、棘突起(手で背中を触るとちょっと固い骨の先端が触れると思います)と呼ばれる背骨の後方の部分が肥厚することで、Lordosisが減少することを示しました。実験方法としては、60歳以上の高齢者90人の腰椎CTスキャンの画像を計測して、Lordosisの減少と棘突起の肥厚に高い相関関係があることを明らかにしました。

これまでLordosisを回復させるためにはosteotomyと呼ばれる時に大量出血を起こす手術や、多くのスクリューなどを留置しないとならないlong-segment spinal fusionが行われてきました。しかしこの論文の結果は、後方の棘突起を低侵襲で治療することでLordosisを回復させる可能性を示唆しています。低侵襲という当院の使命に従い、稲波弘彦先生は今後、Lordosisを回復させる低侵襲手術を開発していくことでしょう。

LL-5というのはLordosisを図る指標で左(a)の正常と比べて右(b)の高齢者では角度が減少している。右(b)では椎間板も変性しているが、棘突起が大きくなっているのが一目瞭然である。

図4:Copyright © https://www.nature.com/articles/s41598-020-63648-7
写真はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 4.0 国際)のもとに掲載を許諾されています。

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古閑比佐志

古閑比佐志

資格・所属学会
日本脳神経外科学会 専門医
日本脊髄外科学会認定脊髄内視鏡下手術・技術認定医
日本脊髄外科学会
日本整形外科学会
内視鏡脊髄神経外科研究会
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