脊椎内視鏡下手術について

脊椎内視鏡とは

脊椎内視鏡には大きく分けて2種類あります。MED(内視鏡下腰椎椎間板摘出術)とFESS(Full-endoscopic spine surgeryの略称で、従来の経皮的内視鏡下椎間板摘出術 PELDやPEDを包含する概念)です。その最も異なる点は大きさです。MEDは外径16mm、FESSは外径7mmで、そのためFESSの方が筋肉や骨、関節などの正常組織を痛めずに手術が実施可能です。その結果通常手術翌日には歩いて退院することが可能です。もう一つの相違点はFESSが手術器具内に水を還流して手術を行うため、術後の癒着や組織の瘢痕化が生じにくいという点です。したがって再発した時も手術の難易度があまり上がらないという点は、FESSの大きな利点です。FESSで用いる機器の外観を図に示しますが、先端の約4mmの穴から鉗子類をだし入れてして椎間板などを摘出することになります。

手術機器

「若手脊椎外科医のための内視鏡手術ガイド」より許可を得て転載

手術方法

FESSにる椎間板ヘルニアの手術(FED (full-endoscopic discectomy)、従来PEDやPELDといわれていたもの)は内視鏡を挿入する方向から、3種類の異なるアプローチ方法があります。transforaminal 法(FED -TFA: 経椎間孔アプローチ)、posterolateral 法(FED -PLA: 後外側アプローチ)、interlaminar法(FED -ILA: 経椎弓間アプローチ)です。それぞれ特徴があって、適するヘルニアのタイプが異なります。

アプローチ方法

「若手脊椎外科医のための内視鏡手術ガイド」より許可を得て転載

代表的な手術手技であるFED-TFAはKambinの安全三角(神経や太い血管などが通常存在しない手術操作が安全に行える部位)を経由して行います。以下FED-TFAについて手術の流れをご説明します。

  1. 患者さんを手術ベッドの上にうつ伏せにして、腰椎を後弯させ椎間孔をできるだけ広げるために腸骨部に枕をおいて手術体位をとります。
  2. 透視装置を用いて、体の真横から侵入する椎間孔を確認し、術前計画でのエントリーポイント(内視鏡を挿入する場所)にマーキングします。
  3. マーキングした部分の皮膚を、メスで8㎜切開します。続いて、18G椎間板針をKambinの安全三角から椎間板に到達させます。インジゴカルミン(青色の色素)と造影剤の混合液を椎間板内に注入し脱出した髄核を染色します。
  4. 18G椎間板針を通して挿入したガイドワイヤーに沿ってペンシル型obturatorを刺入します。続いてbevel type のカニューラを挿入し、これが透視正面像で椎弓根内側縁、側面像で椎体後壁に設置されていれば硬膜外腔に安全にカニューラを設置できた事になります。
  5. カニューラを適切な位置に設置できたら、内視鏡を挿入し鉗子やバイポーラーを用いて、線維輪を露出させ術野を確保します。更に剥離子を用いて、後縦靭帯下の染色された髄核を露出させます。
  6. 露出させた表面の膜を破って鉗子を挿入し、染色された脱出髄核を切除していきます。髄核が十分摘出され、硬膜と後縦靭帯の間に十分な空間ができ、硬膜外側の脂肪の拍動が確認できたら摘出終了です。
  7. 最後の出血などを確認しながら内視鏡を抜去し、皮膚を1針縫って手術は終了です。

この手術の流れからもわかるように、髄核を摘出することより、それまでの内視鏡の正しい位置への設置が、この手術を安全に正確に行うポイントになっています。

対象疾患

腰椎椎間板ヘルニアの全て

ただし術者の技量によってかなり適応範囲が変わってきます。古閑はすべての腰椎椎間板ヘルニアを手術できますが、古閑の指導している医師たちでもその領域まで到達している医師はまだおりません。

古閑はこれまで多くのトップアスリートの手術を担当してきました。直径7mmの内視鏡を用いた腰椎椎間板ヘルニアの手術は、そのような方々に特に早期の競技復帰の点からもお勧めできる治療方法です。

頸椎椎間板ヘルニア

神経根症という片方の上肢の痛みやしびれ、筋力低下を生じている場合は適当となります。中心性(椎間板の中央が膨隆しているタイプ)には、適応がありません。中心性頸椎椎間板ヘルニアに対しては一般的に頸椎前方固定術という手術術式が適応となりますが、この術式にもMED用の内視鏡を用いて低侵襲化する工夫を岩井グループでは行っております。

腰部脊柱管狭窄症

馬尾症状(歩行しているとだんだん両下肢がしびれたり痛くなる間欠性跛行など)を呈する中心性の腰部脊柱管狭窄症は、現時点ではあまり良い適応とは言えません。直径7mmのFESS用内視鏡で手術できないわけではないのですが、手術時間がかかりMELなどの従来法と比較してメリットが生かせないからです。現在もう少し太い内視鏡の開発が進んでいて、それが利用できるようになれば中心性の腰部脊柱管狭窄症も良い適応疾患となってきます。現時点では神経根症(片側の足だけが痛かったりしびれる)を呈する片側性の外側陥凹狭窄など腰部脊柱管狭窄症の一部のタイプのみが直径7mmのFESSの良い適応と言えます。

頸部脊柱管狭窄症

これも現時点では適応は限定的です。その理由は内視鏡の直径より広い範囲の骨切除を行わなければならないため、脊髄に直接内視鏡が当たってしまうリスクがあるからです。これを避けるために側臥位で手術を行ったり、内視鏡の把持機などを用いる工夫が必要ですが、そのような手術手技がまた確立したとは言えないからです。

腰椎椎間孔狭窄

これは神経が脊柱管から脊椎外へ出ていく部分の骨の穴(この部分を椎間孔と呼びます)で神経が圧迫される病気です。椎間孔を広げるためにはその近くにある関節も一緒に切除しないとならないため、これまでは椎体間固定術という手術(骨切除のあと金具を使って関節が動かないようにする)が一般的に行われてきました。直径7mmの内視鏡は関節を温存したまま、神経の圧迫をとることができるので、椎体間固定術に代わりうる低侵襲な手術方法と言えます。通常の固定術ですと10日から2週間くらいの入院が必要で術後の痛みも強いです。またスクリューなどの異物を体内に留置しないとならないので、細菌が感染する割合がそれらを用いない場合より高くなります。FESSで行うと2泊3日の入院で、当院ではこれまで感染は発生していません。ただしこの方法にも限界があります。局所の変性側弯が強い例、分離すべり症などを伴っていて骨の切除のみでは完全に神経の圧迫をとることができない例(不安定性という骨の動的要因が関与しています)などです。他医院で固定術しかないと言われた場合でも、FESSの適応があるのかどうか一度ご相談頂ければと思います。

高度な成人脊柱変形や側弯症

これらは骨の矯正が必要になる場合が多く、基本的にはFESSで治療することはありません。ただし背骨の変形を直すのではなく、変形によって生じた神経根症状(片側の足のある特定の部位が痛いなど)は治療することが可能です。それは外来で神経根ブロックなどを実施して、障害のある神経根を同定し、その神経の圧迫だけをとるのです。腰の骨の写真を術後とっても全く骨の変形は治っていません。しかし足の痛みはとれたという患者さんをこれまで何人も経験してきております。このような病態も一度ご相談頂ければ、適切なアドバイスができると思います。

固定術後の隣接椎間障害

腰椎椎体間固定術を実施した後の、隣接する椎間板で椎間板ヘルニアが生じたり、椎間孔狭窄が生じることがまれにあります。そのような例では従来固定術の延長(さらに頭尾側に向かって固定する椎体を増やす手術)などが行われてきました。これは正しい治療方法のひとつですが、FESSの技術を用いると固定術の延長を行うことなく、治療できる場合もあります。このような病態も個々の患者さんで適応が大きく異なりますので、一度ご相談頂ければと思います。