VOMITをご存じですか?

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Case of victims of modern imaging technology: Increased information noise concealing the diagnosis.
Mahajan A, Santhoshkumar GV, Kawthalkar AS, Vaish R, Sable N, Arya S, Desai S. World J Radiol. 2017 Dec 28;9(12):454-458.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5746649/

これまで我々の医療財団から発信された論文をご紹介してきましたが、今後は他の施設から出された医学論文でも、すばらしいものは随時ご紹介していこうと考えております。まず第一に取り上げたいのはVOMITです。VOMITは「吐く」という英語ですが、それと全く関係なくVictim of Modern Imaging Technologyの頭文字をとった略称です。日本語に訳すと「最先端の画像技術(MRIやPET-CTなど)による生贄」とでもなりましょうか。画像診断技術の進歩によって生じる診断ミスによる不適切な医療行為や追加検査などのことです。このことによって患者さんは、時間的、精神的、肉体的損害を被ることになります。オリジナルの論文はHayward Rという方が書いたVOMIT (victims of modern imaging technology)-an acronym for our times. BMJ. 2003;326:1273です。しかしこれは皆様が無料で読むことができませんので、Abhishek Mahajanさんが最近発表した無料で読める論文を例にして、VOMIT症候群をご説明いたします。

この論文の中で稀な第一中手指節関節の結核性関節炎を例に挙げて、VOMITのリスクを説明しています。症例は40歳の男性で1か月前から右手の拇指の根本の痛みと腫脹を訴えて病院に来院しました。首の痛みと腫脹もあったことから頸部エコーが行われて、甲状腺に直径15mmの腫瘤も認められています(図1)。採血結果に問題なく、第一中手指節関節の骨破壊像がCTで認められたため(図2)、Tc-99mシンチグラフィー(がんの転移などの診断に用いられる機械)が行われました。その結果原発性甲状腺がんの骨転移と診断されてしまったのです。その後患者さんはがんの専門分野に回されて、甲状腺と第一中手指節関節のバイオプシーを受けました。その結果ががんでなかったことから、更に様々な検査が行われ、最終的には第一中手指節関節の破壊は結核によるものであることがわかりました。最終的には正しい診断がついたわけですが、それまでに多くの無駄な検査(特にバイオプシーは観血的手技ですので様々なリスクがあります)が行われ、時間、医療資材も無駄に使われました。更に結核の治療開始も遅れたわけです。この論文の結論としては放射線診断医と実際の患者さんをみる医師とが十分に意思疎通して(情報交換してとも言い換えても良いでしょう)、診断ミスをなくしましょうというものです。

図1
図2

図1、図2の写真はすべてクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)のもとに掲載を許諾されています。

当院にも他の病院でとった写真をご持参し手術を希望されてくる患者さんが多数おります。しかし画像所見と実際の患者さんの症状が合致せず、手術が必要でない場合がしばしばあります。患者さんに手術が必要ないことをご説明しても、かえって怒って帰って行かれる場合もあります(当方が患者さんにご理解いただけるよううまく説明できていないためかもしれません)。手術は画像だけで決めるのではなく、患者さんの年齢・性別、発症からの経過や自覚症状・他覚的神経所見などを総合的に判断して決めなければなりません。時には神経根ブロックや電気生理学的検査などの追加も必要になります。当院も放射線診断医の先生が活躍してくれていますが、診断に迷った症例では、放射線診断医と直接話して議論したりする場合もあります。これは当院が小さな病院で小回りが利くからできることかもしれません。今後も画像だけに頼らず、正しい診断に近づけられるよう努力してきたいと思います。

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古閑比佐志

古閑比佐志

資格・所属学会
日本脳神経外科学会 専門医
日本脊髄外科学会認定脊髄内視鏡下手術・技術認定医
日本脊髄外科学会
日本整形外科学会
内視鏡脊髄神経外科研究会
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